夜間飛行読書会レビュー

サン=テグジュペリ『夜間飛行』読書会レビュー

7月24日に読書会を開催しました。
遅れましたが、レビューを掲載します。

今回読んだのは、フランスの作家サン=テグジュペリが1931年に発表した小説『夜間飛行』です。
郵便飛行の草創期、ブエノスアイレスの基地で責任者を務める男リヴィエールの強権的なルールのもとで夜間飛行に従事する人々。
ある夜、突発的な嵐により、1機の郵便機との通信が途絶えてしまう。地上で郵便機を待つ関係者は懸命に無線で呼びかけるが……という物語。
各登場人物の人生から心内発話まで語る、いわゆる「三人称多元視点」で、それぞれのドラマが描かれます。

司会の私を含む8名で読み解き、多くの感想が挙がりました。

『星の王子さま』を読んだことがある人は? と尋ねると、ほとんどの方が一度は読んだことがある様子。しかし今回の『夜間飛行』をこれまでに読んだことがある方は少なかった模様です。
どの翻訳で読んでもOK、という告知を出していたので、
新潮文庫版の堀口大学訳・光文社古典新訳文庫の二木麻里訳の2種類のどちらかを読んだ人に分かれました。

人数が多かったので、感想を皆さんに順番にお話ししていただきました。
その一部をご紹介します。

  • 作中の飛行機が二人乗りだと途中まで気づかなかった。
  • 地名を確認して読まなかったので、出来事が起こった場所の位置がわからなかった。
    • 地図は新訳に付いている方がわかりやすい。
  • 嵐に遭遇した飛行士ファビアンの行方が、はっきりとは書かれていない点が気になった。
  • 読む前に家族にどんな内容か尋ね、「小説というよりは哲学論」というコメントをもらった上で読んだ。
  • リヴィエールが中心の作品というところがポイント。
  • ファビアンの妻が出てきたところからグイグイ読めた。
  • 描写があまりに美しく、詩のようだと思った。
  • 飛行中の描写が、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』を思い出させた。

非常に面白い観点ばかりだったので、その後は、これらの感想についてさらに深掘りしていく形で進行しました。

特に話題として盛り上がったのは、作品の終盤、ブエノスアイレスの基地で、リヴィエールとファビアンの妻が会話をする場面。
それまで鋼鉄の意思を持つように思われたリヴィエールが、劇中唯一たじろぐシークエンスは、最もドラマティックな場面でもあります。

郵便飛行・夜間飛行という、人類の未来を作る崇高な理想。
それを実現するためなら、個人の幸福は犠牲になってもいいのか。
ファビアンの遭難を通して、この葛藤が作品のメインモチーフとして語られます。
もっとも、これは語り手が語っていることであって、その点をどのように考えるか、読者にはだいぶ疑う=考える余地が残された文章であると言えます。


ところで、サン=テグジュペリといえば、宮崎駿が影響を受けた作家のひとりです。
サン=テグジュペリの作品(『星の王子さま』ではなく、『夜間飛行』や『人間の土地』のような、本領を発揮した小説)を読むと、『紅の豚』『風立ちぬ』などなど、ジブリ映画を思い起こさせる文章に行き当たることがたくさんあります。

1999年、当時のNHK衛星第2で放送された『世界・わが心の旅』シリーズでは、『サンテグジュペリ 大空への夢~南仏からサハラ~』の回で、宮崎駿が自らフランスへ赴き、サン=テグジュペリの辿った経路を旅します。
(DVDは新品では手に入らないのですが、ネットには比較的探しやすい形で落ちてますね……)


東京都の感染者数は日に日に増加し、本日の感染者は過去最多の4000人超えです。
オフラインでのイベントも計画していたのに、残念ながら、また白紙に戻さざるを得ません。

その代わりに、彗星読書倶楽部では動画配信を行うことにしました。
すでに準備を進めつつありますので、ご期待ください。

EDITED BY

森大那

1993年東京都出身。作家・デザイナー。早稲田大学文化構想学部文藝ジャーナリズム論系卒業。2016年に文芸誌『新奇蹟』を創刊、2019年まで全11巻に小説・詩・批評を執筆。2018年にウェブサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』を開始。2020年に合同会社彗星通商を設立。

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