『Interviews vol.1』
現代の価値観に寄り添う着物体験
INKIMONO・松本スターシャさんへのインタビュー
今月発売予定の私の新刊『Interviews vol.1』。
そこには、自ら会社を設立して新たな仕事を始めた私が、「仕事」をテーマに、どうしてもお話を聞きたかった3名の方へのインタビューが掲載されています。
今回は、それぞれのインタビューから一部を抜粋、先行公開します。
お二人目は、浅草で着物のレンタル・着付け・レクチャー・撮影と、着物体験のトータルサービスを提供するINKIMONOを運営している、松本スターシャさん。
現代の私たちが「着物」に持つ固定観念を覆す、明るく現代的な色合い、ジェンダーフリーな組み合わせの着付け、ご自身で作り上げたプラスサイズの浴衣……
今日の価値観に合わせたスタイルを次々に生み出す松本さんの写真にTwitterで出会って以来、どんな想いからその創造性が湧き出ているのか、どうしてもお聞きしたいと思っていました。
今月発売の本では、30ページにわたり、SNSだけではわからない、松本さんの活動の裏側をお伝えします。
歴史古く魅力的な伝統と、それを持つがゆえに古さを捨てきれない領域で、いかに新たな一歩が踏み出されているのか……?
松本さんの言葉には、多くのヒントが散りばめられています。
関連リンク:
INKIMONO
https://www.inkimono.com/
Twitter:
https://twitter.com/inkimono1
Instagram:
instagram.com/inkimono
写真提供:INKIMONO
なお「INKIMONO」の表記は松本さんのご確認のもと、大文字表記としています。
INKIMONOができるまで
森:私がINKIMONOについて初めて知ったのは、松本さんのツイートがTwitterのタイムラインに流れてきたことがきっかけでした。そこに写る人たちの笑顔を眺めていると、「自分の人生の主人公は自分なのだ、という、当たり前であるがゆえに忘れがちであることを、松本さんに着付けてもらい、撮影されることで思い出しているような笑顔だ」と感じました。このINKIMONOが始まるまでの経緯をうかがいたいのですが、ウェブサイトのプロフィールによると、写真を学ばれたところから、松本さんのキャリアがスタートしたようですね。
松本:二〇一六年から写真を撮り始めました。その頃は街の写真を撮っていて、正直、ポートレートは興味がありませんでした。同じ頃に着物に興味を持ちはじめたのですが、その時点では、写真と着物は組み合わせて考えてはいませんでした。その後色々な経緯があって、好きなものを組み合わせることを思いつき、INKIMONOのコンセプトが浮かびました。
森:着物と出会った最初のタイミングはいつだったのでしょうか。
松本:二〇一六年の一一月、ちょうど四年前です。私が日本に来たのは八年前。その時に、ポーランド語を勉強していた女性と知り合いました。その方には、茶道体験とか、着物の着付けのような、伝統的なことを体験させていただいたのですが、ある日その方に、振袖を着てみたいかと聞かれました。四〇年前に成人式で着た紅型振袖をお持ちだったんです。もちろん着てみたいですよね。その時に着付師・美容師を予約してくれて、知り合いのフォトグラファーが綺麗に私のポートレートを撮ってくれました。その体験が印象的で……まさしく、自分が主人公になった気分でした。四〇年前の振袖ですが、状態は完璧で、見ても古いものだとはわかりません。聞けば、四〇年間、たんすで眠っていたものです。その時、そういう着物はいっぱいあるんじゃないかと思いました。道を歩いていても、着物を着ている人はいませんよね。いたら、「え、なに、イベント?」って思うでしょう。もし、自分で着られるようになるなら、そうした誰も着ていない着物をぜひ着たいと思って、着物教室を探して。体験レッスンで初めて自力で着た時には「すごいなあ」と思いましたね。その時は、趣味として始めました。
森:それまでに服飾に興味を持たれたことはありましたか?
松本:ファッションにはそこまで強い興味はありませんでした。それまで興味があったのは街の写真、特に昭和の面影が残る下町です。昔の映画の雰囲気も好きで、六十年代の日本映画だと、女優はまだ着物を着てるでしょう、それが綺麗だなと思っていまして。美学、といいますか。英語ならaesthetic……自分が綺麗だなと思うものがそれでした。どっちかというと、古いものが好きです。例えば、渋谷とか新宿の風景じゃなくて、下町だったら浅草。けど、浅草もそうした部分は無くなってきています。このあいだ、京都へ行って感動しました。新しいものと古いものをうまく同居させてます。
森:東京とは比べ物にならないほど、意識的に、計画的に古いものを保存していますよね。
松本:それにやっぱり、京都の人は着物のことをよく知っています。東京の人は、着物についてはあんまり知らないですね。
着物をパーソナライズする
森:ウェブサイトやSNSを見ていると、お客さんにパーソナライズするというINKIMONOのコンセプトが強く伝わってきます。そのために、お客さんにどんなことを質問しますか。
松本:予約してもらう時に、用意している質問があります。身長や靴のサイズはベーシックな質問ですが、色の好み、柄の好み、着てみたいコーディネート……着物は色々あるじゃないですか、礼装や、例えば吉祥寺にランチ食べに行くときのような、普段着だけどちょっといい普段着とか。嫌いな色や嫌いなスタイルを聞くこともありますね。事前にお客さんの写真も見せて頂くようにしていますし、SNSも見ます。あと、趣味とか、好きなもの。例えば、猫が大好きで服に猫のピンをつけている人であれば、猫の形の帯留めを選ぶといった、面白いコーディネートを用意してあげることもあります。
森:ジェンダーレスな着付けは、パッと見た時に、「なるほど、納得!」って感じでした。本当にこれは男女、いや「男女」に限りませんけれども、誰が着てもキマるカラーリングだなと思いました。あれを着ていらした方の希望は、結構反映されているんでしょうか。
松本:そうですね。その方は自分のことを、男性でもない女性でもないと思っているんです。中性って言いますかね、日本語で。「女性の着物でも全然構わないですよ」って言われて、じゃあ一番良いの考えてあげるよって言って、そんなコーディネートが浮かびました。実は自分もすごく納得しました。これが良い!って思って、自分も同じコーディネートを着ました。
森:その写真も上げていらっしゃいましたよね。
松本:そうそう。気に入って、これはおしゃれだなって思って、自分も真似しました。
森:きっと、あの写真を見て「自分も着たい」と憧れた人、相当いたのではという気がします。
松本:あの投稿は注目されました。
プラスサイズ浴衣
着られない人が着るために
森:あとは、最近とても注目されたのは、プラスサイズの浴衣の写真でした。完成するまでに相当苦労されたのではと思いますけれど、作ろう思ったタイミングから完成まで、どれくらいの期間がかかったのでしょうか?
松本:去年五月から和裁教室に入って、今年三月に出来ました。その時ちょうどコロナが一番大変な状態になって、モデルさんは東京からちょっと離れてるところに住んでいるから、なかなか撮影できなかったんですよ。そのあと、ちょっと落ち着いた時期があったじゃないですか。その時に、よし、今撮らないといけない、と思いました。アイディアが浮かんでから出来るまで、一〇か月かかりましたね。
森:去年五月の段階で彼女が撮影すると決まって、そこから作ることになさったわけですね。
松本:私自身は、アンティークの着物でも着られるくらい、小柄なんですよ。だけどそういう方は少ない。プラスサイズの浴衣を着たモデルはサラという人なんですけど、その時はまだ会ったことがありませんでした。彼女とはインスタグラムでつながって、メッセージ送ったら、「ぜひやりましょう」と。彼女は寸法を教えてくれて、いつか彼女が浴衣を着てモデルをしてくれるのを考えながら作ってました。
森:一番最初は松本さんから彼女に声をかけた。
松本:なんでプラスサイズを作ろうと思ったかというと、結構そういうメッセージを受け取るからです。「プラスサイズでも着物着れますか?」という問い合わせです。で、探してました、色々ググってみて。でも、ないんですよ、本格的なプラスサイズ。Lサイズとか2Lサイズみたいなのはあるけど、体格が大きな人は、それじゃ全然足りないんですよ。「フリーサイズ」と呼ばれるサイズだって意味がよくわからない。「フリー」って何? 実際にはいろいろな方がいます。日本人の女性でも結構みんな背が高いんですよ。電車に乗ると、女子高生は私より全然背が高い。私は一五四センチ。今は一六〇センチ以上が一般的です。
森:そう、一六〇センチ以上の人って、今はたくさんいますよね。
松本:だけど着物業界は、まだそこに対応できていません。反物のサイズも、昔の人の体を基準にしたまま変わってないし。まだ古い考え方がメイン。それは残念ですね。で、いろいろとプラスサイズの着物を調べてみたんですけど、やっぱり何も無くて。自分が作らずに誰が作る……? と考えて、ちょっと挑戦してみました。
ウェブ上で公開するのはここまで。
全文は、2021年3月発売予定の『Interviews vol.1』にてお読みいただけます。
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