OKOLIFE

『Interviews vol.1』
お香のサブスク『OKOLIFE』とその裏側
香雅堂さんへのインタビュー

今月発売予定の私の新刊『Interviews vol.1』。
そこには、自ら会社を設立して新たな仕事を始めた私が、「仕事」をテーマに、どうしてもお話を聞きたかった3名の方へのインタビューが掲載されています。

今回は、それぞれのインタビューから一部を抜粋、先行公開します。

お一人目は、麻布十番のお香の老舗・香雅堂の代表取締役社長、山田悠介さん。
お香のサブスクリプション=定期便『OKOLIFE』を2019年7月から開始し、原材料を全て公開、天然素材か合成素材かも明記、大量生産ではなく毎月10本ずつ届ける、お香のオープン・フェア・スローを実現するための画期的な試みを始められました。

サブスクを始めると最初に送られてくる初回セットには、お香・原材料サンプル・リーフレットの通常セットに加え、保管ケース・A41枚の解説・お香スタンド・ライターまで付属。
届いた時からすぐにお香を楽しむことができます。

私が『OKOLIFE』を知ったきっかけは、山田さんがnoteに書かれた以下の記事。
一般には知られていない、お香業界の動向に驚きました。

オープン・フェア・スロー──お香と社会の3つの「隙間」
https://note.com/okopeople/n/n6db7dfc97ad6

アイディアだけではなく、生まれた背景にも感銘を受けて、お香や香水好きの私はすぐさま登録しました。

このプロジェクトが始まるまでに、どのような経緯があったのか?
始まってから、どのように進化していったのか?
note記事の内容を踏まえ、昨年末、山田さんにお訊きしました。

関連リンク:
香雅堂
http://www.kogado.co.jp/
OKOLIFE編集室
https://note.com/okopeople
OKOLIFEサイト(OKOCROSSING)
https://oko-crossing.net/okolife/
OKOLIFESTORE
https://kogado-okolife.stores.jp/

写真提供:香雅堂


なぜ「オープン・フェア・スロー」が目標になったのか?

森:山田さんが香雅堂で働き始めたときに驚かれたことがあったそうですね。紙の伝票だったこと以外にも、専門用語の指してるものが業界内で統一されていない。例えば、「白檀の香り」なるものが人によって異なって認識されていたり、成分表がオープンになっていないというのは、私のようにお香に詳しくない人には驚きです。比較的多くの人が馴染んでいる、アロマオイルやヨーロッパ産の香水だと、「○○の香り」と聞けば、あ、あの香りね、と、割と結びつきやすいような気がしますが、日本のお香では勝手が違うのですね。

山田:そのへんは全然違うと思います。

森:香りの質感をどのように言葉にしていくかは、後ほど伺うことにしまして……はじめて山田さんが香道体験をされた時に、「全部香りが一緒じゃないか」と思ったと書いていらっしゃいました。私もお香と聞くと、仏壇やお寺のお香の香り、という、なんとなくのイメージしかなかったのですが、いま手元に用意した、三種類のOKOLIFEのお香を比べると、それぞれ香りの個性が違うと分かります。

山田:そうですよね。僕がはじめてお香にふれた時、「香道」の席に入った時は、本当に、どの香りも一緒じゃんって思いました。香道というのは、いくつかの香りを聞き分ける遊びみたいなことをするんですね。何番目と何番目の香りが一緒ですか、違いますか、って。でも、一緒か違うかも何も、これ五種類全部一緒じゃないかと思うぐらいにしか差を感じませんでした。もっとも、香道で使うお香は、こういうOKOLIFEみたいなスティックタイプのお香ではなくて、また炷(た)き方も違いますけれど。

森:さらに衝撃的だったのは、香木バブルという事態が起こっていた点です。二〇一一年頃から中国の方々が日本に香木を買いに来たというのが香木バブルですね。書かれていた内容ですと、日本にある七〇%程度の香木が買われてしまった。記事は、そうして香木専門店のビジネスモデルが崩壊したところから、新しい方向に舵を切っていかなければ、という内容でした。専門的な業界で起こった事件というのは、一般人には広まりづらいものです。こうなると、この香雅堂さんに限らず、お香業界全体に危機感があったのでしょうか。

山田:業界全体で危機感があったかどうかは、僕の立場では、第一次情報としては分からないです。というのも、香雅堂というお店はかなり独立した存在なんです。言い方を変えると、組合とか業界団体に一切入っていないんです。なので、香雅堂がそういうところで、次世代の後継者たちで集まって「実際どう?」みたいな情報交換するかというと、そうではない。ただ、付き合いのある同業者、何人かの事情通と話をすると、やはり七〇%くらい出てるんじゃないか、という感覚があったり、もう香木に頼ることはできないよねという思いは、多かれ少なかれ、他のお店にもあったはずです。つまり、「これはまずい」という雰囲気があるかどうかというと、ある、とは想像できます。

森:新しい香木が仕入れられない状態になるわけですよね。そこで、新しい方向性として出てきたのが、「オープン」と「フェア」、それから「スロー」の三つだった。二〇一一年の香木が流出した時期から数えると、この三つの言葉が、お店の新しい方向性として決まるまでは、どれくらいの時間がかかったのでしょうか?

山田:このキーワードが出てきたり固まったタイミングというのは、少し「考えにくい」ところがあります。どういうことかというと、もともとそういう思考は、僕や共同副代表の妻の真理子が持っていた、ITでいうオープンソースが当たり前だったり、閉じているものよりもオープンなものの方が価値があるとか、世代ならではと言ってもいい価値観の中で育まれていた。それは表現を変えると、父たちの世代にはあまりない。もちろん世代だけでは語れないですけど、少なくともうちの両親たちはそういうものを、そんなに強く持ってはいなかったです。そこに拍車をかけたのが、さっき言っていた香木バブル。もともとは香木を売っていればなんとかなる商売だったのが、香木バブルの前から香木の供給量がどんどん無くなってきている状況があったところで、ドーンと無くなったので、よりスロー、サステナブルである必要がありそうだね、って認識が強くなった。OKOLIFEというものは、それを達成するというか、旗印として掲げるじゃないですけれど、キーワードとしてはピッタリなんじゃないかなと思いました。じわじわと概念として僕たちに溜まってたものが形になったのが、OKOLIFE。第一弾は二〇一八年かな、その頃には、キーワードとしてはっきり出てきていました。

OKOLIFEが始動するまで

森:いよいよこのOKOLIFEについてお聞きします。形としては、プロジェクト全体の名前はOKOCROSSING。その中に、モノとしてのOKOLIFEと、SNS上のOKOPEOPLEがある。このOKOCROSSING全体で考えた時に、一番はじめに企画として出てきたものは、OKOCROSSINGというプロジェクト全体だったのでしょうか。それとも、新しい商品を作りたいというところから、だんだんとスケールが大きくなったのでしょうか。

山田:おそらく後者だと思います。OKOLIFEというプロダクトを作るところから、発進したんだと思います。けれど僕たちは、新しいものを入れるプラットフォームみたいな存在が必要だとも、前から思っていた。それを同時に考えていきました。正確には、前後はあまりはっきりしない。OKOLIFEというモノを単独で販売するのではなくて、OKOPEOPLEという、新しいコミュニティのようなものも、緩やかに作っていきたい。うちはお店を実店舗でやっています。そこに来るお客さんであったり、もっと広げると二階に香道のお稽古にくる方たちは、だんだん高齢化しています。それが良いとか悪いとかではないですけど、やはりお客様が、世代的に少しずつ入れ替わっていく。僕たちとしても、それなりに年齢の近い方の方が、感覚が分かりやすいというのもある。感覚が、割と比較的共有しやすいような人たちと緩やかにつながっていけるコミュニティのようなものも、やはり必要としている。それがOKOLIFEと同時にOKOPEOPLEという形で走り始めたわけです。

森:OKOCROSSINGという全体的なプロジェクトに関わっている人は、香雅堂の方々と、アートディレクションのチームhesoの四名、そしてOKOLIFEの初回に送られてくるパンフレットにお名前のあるディレクターの瀬下翔太さん、数えると三者でしょうか。

関連リンク:
heso ink.
http://heso-cha.com/
瀬下翔太さんのnoteアカウント
https://note.com/seshiapple

山田:一言で言うのは難しいですね。フェーズによります。現状で言えば、私、妻の真理子と、瀬下さんの三人で運営しているということになります。ただ、プロダクトを作り上げる時や、ウェブページ作り上げる時、アートディレクションまわりは、hesoさんが、二年ぐらいなるのかな、ずーっと一緒にやってくださいました。OKOLIFEは、今は三期って僕たちは呼んでいます。一期はもっと全然形が違う、サンプルというか、トライアル的に、まず三か月だけまわしてみようみたいなことから始まり、何度もちょっとずつ見直して、改変を少しずつ加えています。それには二年弱くらいhesoさんは関わっていただいたんじゃないでしょうか。

森:山田さんが、hesoさんや瀬下さんとつながった経緯は?

山田:そもそも最初のメンバーには、他にも三人ぐらい関わってる方がいらして、その方々のお知り合いとして、hesoさんだったり、瀬下さんがいらして、一緒にやるようになりました。なので共通の知り合いに入ってもらったかたちです。

森:OKOLIFEのパッケージ、毎回付属するリーフレット、透明なお香のスタンドなど、世界観がものすごくしっかりとしています。このビジュアルの作り方は、プロダクトそのものの大きな柱になっていますね。たとえば八月の女郎花だったら、オレンジと黄色がテーマカラーになっています。hesoさんと一緒に作っていく中で、作業はどういう風に進んでいったのでしょう。最初に香りのコンセプトがあって、その香りのコンセプトを言葉で伝えて、こういうグラフィックになっていくのか。それとも、香りのコンセプトがあって、次に実際の調合をして、その調合された香りを伝えたのでしょうか。

山田:今のでいうと前者です。それに加えると、まず、「八月は女郎花です」、ということを決めるプロセスが、一番最初にきます。そうしてスタートが決まったら、僕たちからhesoさん側に、八月は女郎花です、女郎花っていうのは花で、どんな香りがして、黄色いもので、こんな歴史があって、という情報をお伝えする。お香作りの方は、同時並行的に進行してるので、作った香りを嗅いでデザインを進めるわけではないんですよ。一緒に対面して、何ヶ月分か一緒に理解を深めることは、たくさんしたと思います。


ウェブ上で公開するのはここまで。
全文は、2021年3月発売予定の『Interviews vol.1』にてお読みいただけます。

オンラインストアでのご購入はこちら。
首都圏の一部書店(下北沢B&B、川口市ココシバなど)でも店頭にてお取り扱いがございます。

EDITED BY

森大那

1993年東京都出身。作家・デザイナー。早稲田大学文化構想学部文藝ジャーナリズム論系卒業。2016年に文芸誌『新奇蹟』を創刊、2019年まで全11巻に小説・詩・批評を執筆。2018年にウェブサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』を開始。2020年に合同会社彗星通商を設立。

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