ノート・テイキング・マニュアルver.1
ノート・テイキングとは
ノートに何かを書き込むことを、英語ではnote takingと言います。
「ノートを取る」という言い方を日本語ではしますが、その行為を名詞化した単語って聞かないですよね。これが管理人の不満でして、「ノート使用法」、と言えばいいのかもしれませんが、note takingという言い方の、「ある目的遂行のために技法に沿ってノートを使う」というニュアンスは日本語には無いと管理人は感じます。
そんな言語面の特徴が日本人の思考に作用しているのか、効率の良いノートの書き方を学校で習った記憶がない。
管理人は日頃何冊もノートを使いますが、自分なりに効率よく、しかも使いやすい方法にたどり着くまでには何年も試行錯誤を重ねました。
しかも、ノートの紙面の使い方=技術面で大いに参考になったのは、日本語の本ではなく、英語のウェブページでした。
どうも日本では、レポートや論文の書き方なんかは大学で指導されるのに、ノートの効果的使い方のレクチャーを受ける機会が少ないように思います。
ノートの使用法というのは、職業や、その人が設定したゴールによって様々で、誰にとってもベストなメソッドがあるわけじゃない、というのが現実なのですが、
とは言え、学習や記憶や創造のために明らかに効果的な書き方というものは存在するのも事実。
ノートの使い方について、改めて研究してみましょう。
ノートにまつわる困ったあるある
デジタルではなく、紙で記録をするときのデメリットは、やはりいくつかあるわけですが、管理人がかつて悩んだ代表的なものは下の2つでした。
ついノートの種類を作りすぎる
自分の失敗から学んだ事ですが、かつて管理人は、
・自分の考えた事をまとめる思考ノート
・本の中から気に入った文章を書き写した抜き書きノート
・小説や詩のレトリックを採集するためのレトリックノート
さらにほか何冊かのノートを並行して使っていました。
しかし、ジャンル分けをし過ぎて、いちいちノートを変えるのが面倒だったり、どのノートにも適合しない内容を書き残したいときなど、困ることが多々ありました。
のちにも書く通り、ジャンル分け自体は問題ではないのですが、上のジャンルは性質が近いので、どちらに書き込もうか判断に困ったり、図書館に行った時など、使いたいノートが手元にないことの方が多くて、つまりこれは、外出先に1冊だけ持ち歩くべきノートを、分冊していたのが失敗だったんです。
スペースをケチって内容を分けられない
1ページの半分を使ったとして、まだ半分も空白部分があるから別のトピックを書く、というのも、今考えると失敗でした。
その下半分をあとで読み返したくなったとき、上半分にだけ眼が行って、下半分を見過ごす、ということが多々あったのです。
スペースは、もったいなくても1ページに1トピック、というルールを自分に課してみたところ、だいぶ快適になりました。
現在の管理人のノート・テイキング
では、現在の管理人がどんな使い方をしているかというと、
メインにツバメノートを使い、これは時系列で情報が書かれています。
ここには何を書いてもいいのですが、情報ノートとして使うのがメインです。
これに加えて、
経済ノート:経済の知識を書くもの。
ニュースノート(政治中心):その年の元日から時系列でニュースを書くもの。1日の終りに書く。
詩学ノート:ここ数年関心がある近代~現代の日本の詩についての研究ノート。
創作バインダー:小説の創作のアイディアをルーズリーフに書いておき、まとめる。
思考バインダー:思考方法にまつわる内容をルーズリーフに書いてまとめる。+α
と、結局ノートごとにジャンル分けしているのですが、分け方を広くしたのと、自宅で1日の終わりに書く役割を担わせたので、外出時はメインノート一冊になんでも書き、後からまとめることで満足できるようになったんです。
(ちなみに、ジャンル別のノートは、全部違う種類のノートです。なるべくならば製造会社も変えるようにしています。本棚にさしても認識しやすいし、何よりそれぞれに愛着が湧くものです。)
ノート・テイキング、結局の基礎
英語のサイトを見ながらノート・テイキング法を色々と試したところ、優れた方法には次の2つの原則がある……というか、この原則を守れば優れたノート・テイキングになる、というものを発見しました。それは、
1、地の文(主)、と、それ以外(従)、の2要素に分ける。
2、問題解決型と創造型に分ける。
それぞれ解説します。
地の文もいろいろで、見出し/要約/詳しい解説など、新聞のように区別を設けることもできますよね。
図・グラフ・イラストなどを加えると、文章の内容を短時間で理解しやすくなるわけですが、文章と図などをシームレスにつなげてしまうと、地の文の重要性が薄まってしまうことがあります。
地の文を主、それ以外を地の文の補足にする、と割り切った方が、後から読み返したとき明晰に把握することができる。
ノートは、使う人によって使用目的が異なるものです。
ビジネスマンなら問題解決をゴールにすることが多いでしょうし、
学生なら、授業や本の内容、とかく曖昧になりがちな議論を明晰にするのがノート使用のゴールです。
一方、学者やアーティストは、連鎖的に生まれるアイディアを書き留め、その脈絡をあとで確認できるかどうかが重要になります。
(あと、読み返したときに、補足を書き込めることができるかどうかも重要です。ということは、補足用のスペースを確保するノート形式があればいいわけですね。この後お教えします。)
問題解決型と創造型、このふたつの書き方は、目的に応じてキッパリと分けるべきです。
管理人は以前、キッパリ分けずに、その中間みたいな書き方をして、その時やっていた作業のゴール設定を見失ったことが何度かあり「こりゃダメだ」と痛感しました。
ノート一冊ごとに分けるのではなく、ページごとに分ければ結構。
何だか教科書みたいな文章になってしまった。
まあでも、原則を人に伝える文章なんて、そういうものです。
ノート・テイキング3選
コーネルメソッド
ノート・テイキングの世界では最も有名な方法が、コーネルメソッド。
アメリカのコーネル大学の教授だったウォルター・ポークが発明し、その後コーネル大学が推奨するノート・テイキング・システムとして有名になったフォーマットです。
正直な実感を述べますと、問題解決型ノートとしては最強です。
作り方は簡単で、
1、まとめたい事柄を書くエリア
2、1の補足を書くエリア
3、要約エリア
この3つを作ればいいだけです。
ウォルター・ポークはさらに詳しい使い方を書いていて、一部だけ紹介すると、
・まとめたい事柄を書く時点で、なるべく少ない文量にしたほうがいい。
・補足エリアには疑問を書くといい。
・内容は読み直すこと。
・「何が最も重要か」を考えること。
もっと詳しいことは下のリンクから。
コーネル大学のサイト
http://lsc.cornell.edu/notes.html
ウィキペディアの項目
https://en.wikipedia.org/wiki/Cornell_Notes
KWL法
これも発祥はアメリカ、教育研究のドナ・オーグルが1986年に発表した論文が初出。
ほとんどすべての状況に言えることですが、
自分が何をやったのか、人間は、わかったつもりになって、全くわかってない。
つまり、ポプテピピック的状況は、どんな人間にも起こるのです。
これを無理矢理にでも分からせてやる、というのがKWL法。
表を作るのがオリジナルのアイディアなのですが、これもコーネル式と同じで、要は以下の3つのエリアをノートに書けばいい。
K:今までの自分が何を知っているか(What I know)
W:自分は何を知りたいか(What I want to know)
L:自分は何を学んだか(What I learned)
そんなこと言われなくても自分の頭で出来らあ!というヤツは、絶対嘘をついています。
人間は、論理的区分が絶望的に出来ないのがデフォルトで、先人の遺産である情報整理の「型」をインストールできた者だけが区分の能力を得るように作られています。
KWL法は、一瞬にしてそれを可能にし、この方法に慣れた人はノートなしで自分の脳の中だけでこれができるという、まさに魔法。
でも本当はノートに書くというのが一番良くて、これは自分の成長の可視化のひとつなんですね。
インデント&ブリッジ法
これは管理人オリジナルの方法です。
区分けを使うのではなく、第一段落から第二段落を離して書く。これだけで、どの文章・情報がメインであり、どれが副次的で優先度が低いのか、一瞬で判断できる。
カフカの代表作のタイトルを知ることが最優先だとします。(第一段落)
カフカ自身にまつわる裏話は、副次的情報と言えますね。(第二段落)
裏話の補足もさらに加えるとする。(第三段落)
図では極端にしていますが、副次的情報は距離を離し、メイン情報よりも書き始めのスペースを空け(インデント)、関連することを示すために線を引きます(ブリッジ)。
ある一連の事柄は、メインの情報だけ素早く把握したい場合と、細かい追加情報も見たい場合、このふたつに整理すべきです。
ただ、コーネルノートやKWLの区分けパターンは、副次的情報を削ぎ落とす必要がある。
どちらも大切にしたいと思うのは、わがままじゃありません。
むしろ記憶というのは、副次的情報が多いほど、思い出しやすいのです。
すると、必然的に、このような書き方が最適になるのです。
おわりに
・ノート・テイキングには無数の方法があります。「自分はこんな風に使っている」という方法があったら、ぜひ教えてください。
・彗星教室としてワークショップをやろうかと思うくらい、この話は語れることが多く、できることの可能性は大きく、即時の実用性がある。
・ノートに関して管理人がアナログ主義者なのは、アナログには蓄積された知見があるからで、デジタルにはそれが少なすぎ、時間の洗礼を受けていないからです。デジタルは便利だし、今や必要でもあるけど、物理空間ではまだそれほど信頼はできない。
・新たなヴァージョンを作るかもしれません。