「聞き書き本」を味方につける

自分の生活に飽きることってありません?


最近の管理人はちょっとやそっとじゃ飽きなくなりましたが、
学校行って休日を待つだけ、
仕事行って休日を待つだけ、
というクソ退屈な思いをしている人、たくさんいるはずです。

これを現代のチカラでどう打破するか、を考えるのもいいんですが、
今と昔を比べてみる、というのも、この退屈の循環から抜け出す方法でもあると思います。


聞き書き本のススメ


このサイトの中では、「人文学を味方につける」コーナーの文章を書くのが、一番苦労します。

まず、こまごまとした情報の正確さは徹底する必要がある。
次に、言いたいことが無数にあるのに、最適と思われる文量を考えると、そのうちの一部しか書けない。
で、実際には後者がキツい。

まあそんなことを考えながら、「歴史を味方につける」を書いています。
リリースまではもうちょいお待ち下さい。

さて、歴史を味方につける方法として、
基本的には、包括的な分厚い教科書を参照するのが一番いい手なのですが、何千年もの歴史を扱う書物では、絶対に手が届かないものがあります。

その次代に生きていた人の証言です。
教科書や、歴史を体系的にまとめている書物は、出来事を俯瞰することが目的である分、時の権力者の趨勢や入れ替わりに比重を置き、民衆の生活にフォーカスする記述はめったにありません。

これは、管理人が子供の頃から不満だったことです。
「自分は庶民だ。民衆だ。貴族階級とは縁もゆかりもない。
自分の先祖が街なかでどう暮らしていたのか、それを知るほうが重要だし内容も面白くないか?」と。

そんなわけで、歴史を味方につける方法のひとつとして、証言集・聞き書き本を読むことを提案します。

管理人が最近読んでる聞き書き本


『聞き書き 横濱物語』 語り:松葉好市 著者:小田豊二 

雑誌に連載されていた記事の単行本。
インタビューされている松葉氏という人物が、この時代じゃなきゃ生まれないだろうなあ、と思わずにはいられないくらいブッ飛んだ経歴の持ち主で、
昭和11年に横濱に生まれて、ケンカ三昧の高校生活を送り、23歳でバーを開店、25歳でキャバレーの支配人に。
でもこの本、面白いのはこの人自身のエピソードだけじゃなくて、歓楽街に生まれ育っているからこそ知っている事情が、どんどん出てくる。

美空ひばりの弟二人が悲惨な人生を送ったって、知ってた?
管理人は全然知らなかったぞ。
横濱の人々が美空ひばりに向ける視線も、スターというより、魚屋の娘が成り上がったと見ていたのでは、なんてくだりは、ゾクゾクするほど楽しい。

いやあ、戦後の横濱って、ろくでもないけど、エネルギーに溢れてたんだろうな。
良くも悪くも、管理人は心惹かれます。
それはドキュメンタリー映画『ヨコハマメリー』を観たときからなんですが、
なんと、管理人が大好きなこの映画に、松葉氏が出演していたらしい!
うーんどこだ? もう一度見直してみよう。

『ヨコハマメリー』、プライム・ビデオでも観られるとは。

アマゾンレビューを見てみると、2003年の発売当時、この本はそれなりに売れた本だったらしい。
今調べたら、2009年には姉妹編として 、『聞き書き 横濱中華街物語』が出ている。
これもよだれの出そうな本で、管理人は思わず注文してしまいましたよ。


迷うこたぁない。聞き書き本を開くんだ。


なんでもいいから何か読みたいと思ったとき、
いや本を読む気さえ起きないとき、
読む気が起きないけど心のどっかでは読みたいと思っているとき(管理人がよく陥るやつ)、
聞き書き本こそ最高の選択肢なんですよ。

聞き書き本にはいいことだらけです。
難しい単語や難解な表現は出てきませんから、重い内容であってもかなりのスピードで読めます。
それに、わざわざ書籍になっているくらいだから、他の人は経験していないであろう特殊な体験を取り上げていることが多い。
「それ言って大丈夫なの!?」という裏話なんざいくらだってザクザク出てくる。
そしてなんでもない、ごくごく平凡な生活の証言というのも、それはそれで、別の時間と空間を生きる私たちにとって貴重な資料です。


誰もが電子機器を使いこなし、ネットへのアクセスが生活と不可分になった今日、考え直してみると、自分の生活は、行動のヴァリエーションがずいぶんと少ないな、と思うときがあります。

まあそれは、かつていくらでもあった面倒なことが一掃されたから、でもあります。
ケンカを街中で見かけるなんて無いし(少なくとも管理人の生活圏内では)、インフラは整ってるし、流通はとにかく早い(この恩恵を当たり前と思っちゃいけない)。
なんとなれば、自宅から一歩も出なくても生活できてしまう。

で、それを退屈だと思った時に、20年、40年、60年まえの庶民は、一日の中でどんな出来事を経験していたのか、知りたくなるわけですね。



聞き書き本はいたるところにある。


図書館や書店へ行き、よく本棚を探ってみれば、聞き書き本はいたるところにあります。
企画から出版に至るまでのコストが比較的少ないため、というのは、その理由のひとつでしょう。
たとえ暇つぶしのための読書であっても、いわゆる「歴史小説」なんか読むより、聞き書き本や、証言をふんだんに盛り込んだルポルタージュの方がはるかに面白いに決まってますよ。

しかし、聞き書き本には、致命的な欠点があります。
あまり多くの読者数は想定できないので、新刊として並ぶ時期が過ぎると、新品では手に入りづらくなってしまうのです。

図書館のどのジャンルの棚にも聞き書き本がやたらと眼につくのは、資料的価値がある・出版点数が多い、の2大要素があるからでは。

管理人は、年に1回くらいの頻度で、古書店へ行って聞き書き本を何冊も買い集めることがあります。
これが創作(管理人の場合は小説)のタネ本になったりするわけですよ。


「生活」を味方につけよう。

管理人は詩や小説はいつも没頭できる夜に読んでますが、
聞き書き本はどんな時間でも読めるし、
どんな飲み物でも合うし、
どんな料理にも合う。ほんとだよ。

歴史、なんて気負わずに、「生活」、を味方につけようじゃないか。
他人が経験していた生活を。
そして、今この瞬間に、どこかの他人が経験している生活を想像しながら、自分の生活も刷新していこう。

EDITED BY

森大那

1993年東京都出身。作家・デザイナー。早稲田大学文化構想学部文藝ジャーナリズム論系卒業。2016年に文芸誌『新奇蹟』を創刊、2019年まで全11巻に小説・詩・批評を執筆。2018年にウェブサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』を開始。2020年に合同会社彗星通商を設立。

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