本を3冊1セットで読むことを推奨する

今からご紹介するのは、一種の読書法なのですが、これを他人に言うと、変な読み方だねと言われることが多いものです。
ただ、私が今までにこれを教えた人々のほとんどは、実行に移してはいないと思われます。
どれほど効果があるか、実際に試してみてください。

私が個人的に本を読むにあたり、3という数字は特別な意味を持っています。
一言で言えば、「3」という数字を使えば、情報がまとまりやすく、同時に、情報が広がりやすいのです。


・3冊をローテーションする

これは、私が中学生の頃から今に至るまで続けている読書法です。
1冊を読み通すまでの時間は長くなりますが、その代わり、読書への集中力がずっと最高潮を保てます。

まず手元に3冊の本を用意する。今読みたい本です。3冊に統一感はなくてもいい。詩と新書と英単語帳、なんてこともありました。
ともかく、それを積み上げて、1冊目を読んでいく。
すると、ある時点で集中力が切れる。
そこですかさず、2冊目に取り掛かる。すると、内容も分野も一新され、集中力は(初期状態と同じとまではいかなくても)リセットされる。
また集中力が切れたら3冊目。
このローテーションを行うことで、集中力が上昇~ピークの状態を維持し、集中力下降の時間を最小限に抑えることができるというわけです。

・3冊が接続する

新たな発想を生みたい時、3冊1セットで読むことは極めて有効です。

ローテーション読書を始めてすぐ、あることに気づきました。
本の中身が、部分的に接続されていくのです。
お気に入りの三冊で試せば、すぐに分かることですが、例えば当時の私の愛読書は、
1:ハルキ文庫の『西條八十詩集』
2:岩波文庫の『北原白秋詩集(上)』
3:2007年に渋谷Bunkamuraで開催されたオディロン・ルドン展の図録
この三冊でした。
そしてこれをローテーションしてゆくと、西條八十の描く空想的で強烈なイメージと、北原白秋の古めかしくどこか残酷な雰囲気がある濃密な言葉の選び、そして、ルドンの実生活と空想が生んだ静かで原始的、それゆえに懐かしくも不穏な想像力が、部分的に組み合わさったり、水に浮いた無数の油の滴がひとつにまとまってゆくように、さまざまなスケールでつながっていったのです。
白秋の詩の色彩によって、ルドンのモノトーンの絵が彩色されたり。
八十の詩に、ルドンの濃い陰りが加わったり。
そうして生まれた観念のひとつひとつが、10代の私の創作の源泉、というより、脳を成長させる材料となったのでした。

これは、似た部類でない本の方が、むしろ新たな発想を生みやすい。
大正時代の詩、霧深い山の中の神社の写真集、地学の教科書。
ホラー小説、数学の一般書、現代建築の解説書。
情報ネットワークに関する新書、言語学の論文、IT起業家が書いたビジネス書(私は好みませんが!)。
一見、関係のない分野の本を立て続けに読むだけで、ふとした瞬間にアイディアが生まれるのです。

・3冊を貫くものを発見する

「新たな関係性」を見つける能力を鍛えることは、読書家に限らず、どんな人にとっても使える能力です。
特に、激動の現代にあっては。

3冊の本は、必ずしも、まだ読んでいなくて構いません。
書店で、図書館で、ぜんぜん別の棚から抜いた3冊の本に、共通点や、組み合わせのよさ、としか言いようのない何かを感じたことはありませんか。
また、すでに読んだ本であれば、なおのこと、部屋の本棚から無作為に3冊選んだ時、そこに、今まで気づかなかった繋がりを見つけることは決して少なくありません。
逆の発想で、見つかるまで考え続ける、ということもできます。
つまり、関係性を「発見する」のではなく、自分で「創る」ということですね。
世界のスモールビジネスを紹介する本、アリストテレスの『形而上学』、英語版Wikipedia「Great Books」のページのプリント。この3つを眺めていて着想したのが、彗星読書倶楽部です。

しかし、なぜ「3」という数は、個人というスケールにおいてこれほど機能するのでしょうか?
これは私の仮説ですが、3人、という人数が、「集団」を成立させるための最小人数であるから、ではないか。

<わたし – あなた>という関係では、会話の内容が限られるものです。実際、2冊だけだと、重なる部分は多くても、それほど新たな関係性に気づけない。
ここに第三者が加わることで、一挙に別の話題・別の視点が生まれます。<わたし – あなた>の様子を客観的に語れるのも、第三者です。本も同じかもしれません。3冊あるから、2冊のあいだの隠れた関係が分かるようになってくる。

また、3冊のうち、わざと1冊、どんな本とも相性のいいもの、自分にとってアイディアの湧きやすいものを頻繁に入れる、というのも、かなり効く手です
私にとっては、高校生の時など、澁澤龍彦のエッセイがこの位置にあったりしたものですが、今は世界地図だったり、高校生向けの政治・経済の参考書だったりします。

EDITED BY

森大那

1993年東京都出身。作家・デザイナー。早稲田大学文化構想学部文藝ジャーナリズム論系卒業。2016年に文芸誌『新奇蹟』を創刊、2019年まで全11巻に小説・詩・批評を執筆。2018年にウェブサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』を開始。2020年に合同会社彗星通商を設立。

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