全集本はカッターで分解しよう
(持ち運ぶために)
全集、という書物について
かつて、昭和という時代に乱立した、「全集」という書物形態。
21世紀の今や風前の灯……かと思いきや、夏目漱石全集は新しい研究成果を反映させて刊行されたし、谷崎潤一郎も久生十蘭も出たし、大江健三郎の「全小説」がただいま刊行中。あ、そう言えば夢野久作全集も始まりましたね。
これらは、言って見れば「コンプリートワークス」で、一人の作家の全作品と各種解説がまとまったもの。
一方、河出書房新社は作家の池澤夏樹編集による海外文学と日本の古典の2種類の「全集」シリーズを出しました。こちらは誰か特定の作家に特化したものではなく、あるコンセプトのもとにアンソロジーとして作られた「全集」です。平成に入ってからめっきり出版されなくなるのですが、昭和には大手出版社から活発に出ていたタイプですね。
河出の文学全集はリーズナブルなお値段なので、新品で買った人もたくさんいることでしょう。
しかし、「全集」という単語を冠した本で、あれは例外的。日本の全集本というのは一冊一冊が箱入りなことが多くて、値段は一般読者が気安く買えない設定になっていることが多い。
ところで、古書店を覗くと、全集本は一冊¥300で叩き売られていたりするのを目にしたことはあるでしょうか。
戦後に大量に生産された文学全集は、現在大量に古書市場にストックされています。
なぜでしょう?
結論だけ書くと、結局、当時全集を買った多くの人は、実際には全集など読まなかったのです。
読まなかったのですが、家に飾っておくと自慢できるため、買っていたのです。で、それが古書市場に流れたわけです。
話に聞くところによると、戦前でも同じような事情だったらしいですね。
試しにそうした本を箱から出してみると、もう、びっくりするほど、天・地・小口(つまり本の上・下・側面)が綺麗なまま。時々ヤケ(空気に触れているために参加して茶色くなっている)もありますが、私の親が生まれた頃の出版だというのに保存状態良好なものが多い印象です。ページをめくると紙がパリパリ音を立てることさえあって、つまり、ちゃんと読まれてなかったんですね。
全集本を持ち歩こう、カッターでバラして。
さて、文学全集というものには、全作品型・アンソロジー型の2種類がある、ということは最初に書きましたが、まあどちらにしろ、安く手に入れられれば、我々一般読書人としては、かなりお得、ということになるでしょう。芥川龍之介とか森鴎外なんて、アンソロジー型全集でバラ売りで手に入れば、たった一冊で相当な量の作品を楽しめるでしょう。
でも、全集本には大きな欠点がありますよね。
つまり、重すぎて持ち運べない。
1冊で400ページは超えるのがザラだし、文庫本よりサイズが大きく、表紙も固い、ゆえに重い。
だから、全集系はKindleで買う、という読書家も、私の周りにはいます。
でも、私は鉛筆で線を引きながらでないと本を読めないので、どうしても紙がいい。
ここにひとつ、解決方法があります。
本をカッターで分解し、重くて固い表紙を捨て、中身を持ち歩ける厚さに分けてしまえばいいのです。
(これは私が大学生の頃、装幀家・奥定泰之さんの授業に出席していて、奥定さんが教室で文庫本をハードカバーに作り直す、というのを見て、その逆を考えて思いついたのでした。のちに、翻訳家や研究家の一部はそのようにして持ち歩いている、ということを知って、やっぱりな! と思ったものです。)
それでは、実際に私がやっている分解作業を、写真でご紹介しましょう。
DIYで、本を作り直す
今回用意したのは、中央公論社が1960年代から70年代にかけて発行していた『世界の名著』シリーズの第33巻、
「フランクリン、ジェファソン、マディソン他、トクヴィル」という、「アメリカ独立」の巻(?)。
ここから、まずはベンジャミン・フランクリンの『自伝』だけを抜き出したい。
それでは、分解していきましょう。必要なのは、カッターと、あれば、マスキングテープ(製本テープでも可)。
表紙を開きます。
すると、どんなハードカバー本でもそうですが、一枚の紙がべったりと貼り付いていますよね。この、本の最初の部分を、「見返し」と言い、右側を「きき紙」、左側を「遊び」と呼びます。
この真ん中をグッと開き、カッターで裂いていきます。
すると、バリバリという音がします。構わず切っていきます……。
切り終わると、背表紙の裏側が見えるはずです。
ボール紙の下に、やけにザラザラした布らしきものが貼りつていますね。これは「寒冷紗」という布の一種で、ハードカバーの本には必ず接着剤でついているものです。さっきのバリバリというのはこれの音でした。
次に、自分が読みたいところを切り出しましょう。
あとは簡単で、本のノド(ページとページのあいだ)に強く刃を当てて、上から下へ切り裂いてゆきます。
接着剤と寒冷紗のおかげで、そう簡単にはバラけません。
切り落とすと、こんな感じ。
でも、本を鞄の中に入れておくと、知らない間に痛むものですよね。
やはり補強があると心強い。
だからここで、テープでの補強をします。私はマスキングテープを使うのが好きですが(ほとんどのマスキングテープは表面が滑らかなので、手のひらにあたって擦れても鬱陶しくない)、事務用品として売られている製本テープでもいいと思います。
私は幅広のマステを愛用しているので、分厚く切っても安心です。
「そんなことせずとも文庫で読むわ!」とか、
「本を壊すのは無理……」という人も少なくはないでしょう。
私は、二段組の方が可読性が良かったり、ハードカバーの方が余白に書き込みやすかったり、読もうと思っていた洋書のペーパーバックがそもそも分厚かったりするので、よく本を切り刻んでいます。