読書会ヒントノート 漫画篇ver1

彗星読書倶楽部の月イチ読書会では、豊田哲也の名作『アンダーカレント』を皮切りに、漫画も取り扱うようになりました。
今回は、「読書会ヒントノートver1」を参考に、漫画を語り合うためのヒントをメモしておきますので、他の読書会、また1人の読書のときの読解ヒントにもお使いください。

ストーリー以外に注目してみよう

漫画はほとんどの場合、「ストーリーの面白さ」が、ある水準を超えることで人目に触れるようになります。
これは、雑誌での連載というシステムを基本とするマンガ業界の、編集部からの要請と言えます。
だから、書店で買う漫画は、極端につまらないというレベルのものは、それほど多くはないでしょう。
しかし、筋立ての面白さなら、誰でも語れそうなもの。
それに、いざ漫画について他人と話そうとすると、ついストーリーにばかり着目してしまったり、実は細かい部分が気になっていたのに、言いたいことをうまく言えないまま会話が終わってしまったりするものです。
もしかすると、小説を語るよりも、難しいことだってあるかもしれません。
(管理人は、かつて岡崎京子の『リバーズ・エッジ』で読書会をやって、だいぶ鍛えられた経験があります……)
そこで、「もしもこの漫画からストーリーの面白さを抜いたら、何が残るんだろう?」と考えると、それまで意識できなかった美点が見えてきます。

絵柄の個性

小説における文体は、よほど作家が工夫をこらさないかぎり、どれも似たものになります。
しかし、日本の漫画の絵柄というのは、漫画家によってかなり差がある。
絵柄から漫画家を特定するのが、かなり容易ですよね。
多くの場合、登場人物の顔の描き方に大きな差が出てくるのですが、それ以外にも注目してみましょう。
髪の毛の質感。
服装。
背景の描き込み具合。
さらには、線の使い方をじっと見ると、漫画家の手の動きのクセまで分かってきます。

内容に注目するなら、ここ

もちろん内容面にも、語れることはたくさんあるでしょう。
管理人がぜひ探してほしいポイントが、2つあります。
ひとつは、「ストーリー上、重要ではないコマ(シークエンス)」。
なぜわざわざ、人間の出てこない風景描写があるのか。犬を連れた朝の散歩や、食事シーンがあるのか。
そんな場面こそ、作者がどうしても絵にしたい場面である可能性が高いのです。
ふたつめは、ストーリーのターニングポイントになっているコマ。
物語のあっと驚く展開が、たったひとコマで読者に提示されているのかもしれませんし、あるいは、読者の興奮を引き伸ばすために、6ページも費やしているかもしれません。
ここの工夫こそ、漫画家の腕の見せ所です。

五感で感じられるか

たとえ情報量の少ない絵を描く漫画家でも、見る者の五感を刺激する漫画を描ける人はたくさんいます。
自分が、その漫画の世界に――コマの中にいると想像してみましょう。
絵の中から、音が聞こえてくるか。
匂いが感じられるか。
もちろん、そんなものは錯覚なのですが、読者に意図的な錯覚を与えてしまえるのならば、それは、作者がどこを工夫したからなのか。
そこを考えると、もう、語れることがずいぶん増えたことがわかりますね。

EDITED BY

森大那

1993年東京都出身。作家・デザイナー。早稲田大学文化構想学部文藝ジャーナリズム論系卒業。2016年に文芸誌『新奇蹟』を創刊、2019年まで全11巻に小説・詩・批評を執筆。2018年にウェブサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』を開始。2020年に合同会社彗星通商を設立。

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