O・ヘンリー「賢者の贈り物」

12・20手ぶら読書会レポート
O・ヘンリー「賢者の贈り物」

O・ヘンリー「賢者の贈り物」

さて、書店『平井の本棚』にて3週連続で開催された「手ぶら読書会」。
最後の作品は、アメリカを代表する作家O・ヘンリーの短篇小説「賢者の贈り物」です。

オーナーとの企画段階で、
「クリスマスが近いタイミングだから、文鳥文庫のなかでも「賢者の贈り物(柴田元幸訳)」がぴったりじゃないですか!」
という話になり、管理人もワクワクしながら当日を迎えました。

とは言え、いくら有名な作品であっても、親しんでいる人、初めて読む人、違う訳で読む人が入り乱れれば、もちろん、一筋縄ではいかないのです……!

O・ヘンリー「賢者の贈り物」

短篇小説の名手、なる称号はよく耳にしますが、その代表格といえば、アメリカのO・ヘンリー(1862-1910)。
多数の出版社から日本語の翻訳が出ているあたり、昔も今も変わらぬ人気ぶりです。
「賢者の贈り物」は彼の代表作ですが、ほかにも「最後の一葉」「都会の敗北」など、最後に意外な結末が待っている、という彼特有の筋立ては、後世の作家に多大な影響を及ぼしています。
(ちなみに管理人が好きなのは「二十年後」。これ、今日でも様々なドラマや映画の下敷きになっています。)

「賢者の贈り物」は1906年発表。若く貧しい夫婦のジムとデラは、クリスマス・イブなのに相手にプレゼントを買う余裕が無い。デラは夫に懐中時計のためのプラチナの鎖を贈るため、長く美しい髪を切って売る。その晩にジムを家で迎えるが、ジムがデラに用意していたプレゼントは、宝石付きの鼈甲製の櫛だった。

この機知に富んだ論理的構造、やはり大きなインパクトがあり、
なるほど、と思いますが、ギフト販売会社のシャディが80年代にTVCMにしていて、2017年からはリニューアルバージョンが放送されています。

80年代のテイストも私は大好きですが、注目は2017年版。
実はこのCM、原作の小説と見比べてみると、
「ここはこう映像化したのか」という面白さがある一方、重要な相違点もあって非常に興味深いのです。
その指摘はあとに取っておきまして……

会場での感想

今回初めて読んだという方も決して少なくなかった本作。

他方、子供の頃に読んだ印象とは違って感じられた、という声もありました。

・小さい頃はハッピーエンドに思えたが、今読むとバッドエンドに思える。

・TVCMの印象でハッピーエンドだと感じられる。

・結末部、「彼らこそが賢者だったのだ」という説明はかなりゴリ押しではないか。

・クリスマスと賢者をむりやりくっつけたということでは。

・「今日の賢者たちに言っておきたい」という一説は、かなり皮肉が効いている。

・目上の人に貢ぐのでも、目下の人に施すのでもなく、対等な者同士が対等にプレゼントすることが「賢い」ということなのではないか。

また、「このオチは可笑しいものと感じられる」という感想から、管理人はふと、「これって落語にできるんじゃないか」と発言してみたりしました。

作品の細部

管理人は中学生の頃に初めて新潮文庫の大久保康雄訳を読みましたが、改めてよーく読んでみると、そして参加者の感想を聞いてみると、やはり今まで気づかなかったディテールをいくつも発見しました。

例えば、髪を切ったデラのヘアスタイルが、「学校をサボった中学生のよう」で「コニーアイランドのコーラスガールみたい」という表現は、管理人はかすかに想像がついたのですが、まったくイメージが湧かない人ももちろんいます。
今回の再読まで、管理人の頭の中では80年代版CMのデラと全く一緒の髪型で映像化されていましたが、
今となっては、2017年版のCMは、原作を忠実に再現していると思います。

また、初読時にも強烈に印象に残っていた、髪を切ったデラを見た後のジムの、呆然としていながら、すべてを悟り「にっこりと笑う」場面の描写の、焦りもせず、また冗漫でもない、極めて計算されたスローな時間と空間の提示の仕方は、
「やはり、相当意識して筆を進めたのではあるまいか」と思わせる上手さでした。

O・ヘンリーの本

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おそらく最もよく読まれた日本語訳。管理人もこれに親しんでいました。

[amazonjs asin=”4102072047″ locale=”JP” title=”賢者の贈りもの: O・ヘンリー傑作選I (新潮文庫)”]

で、今の新潮文庫は小川高義訳なのだそうですが、これは未読。

[amazonjs asin=”B009KZ470A” locale=”JP” title=”1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編 (光文社古典新訳文庫)”]

参加者の方が読んでいた別の訳はこちら。

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案の定、児童文学レーベルからも出ています。
そうか、イラストにしやすいのかも。

 

……いつか管理人も、こんなどうしようもなくバカバカしくて、想像絶するほどに賢い贈り物をできる時が来るのでしょうか?

EDITED BY

森大那

1993年東京都出身。作家・デザイナー。早稲田大学文化構想学部文藝ジャーナリズム論系卒業。2016年に文芸誌『新奇蹟』を創刊、2019年まで全11巻に小説・詩・批評を執筆。2018年にウェブサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』を開始。2020年に合同会社彗星通商を設立。

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